こんにちは、松下です。
やるって言ったのに、続かないんです。
子育ての相談や記事で、定番のように出てくる親御さんの言葉です。
勉強、運動、習い事、そして日記。本人が「やる」と言ったのに、三日で止まる。やる気がないのかな、と心配になる。
自分自身を振り返っても、続かなかったことばかり。英会話、ジョギング、読書など、枚挙にいとまがありません。
大人も続かないのに、子どもの続かないを心配している。
松下 雅征(まつした まさゆき)
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続くために必要なのは、やる気ではなく読者ではないか。そんな考えに至ったのですが、これだけ聞くと、なんで?となりそうなので、その背景を順を追ってまとめてみます。 |
日記を書くと自分を客観視できる。振り返りの習慣が力になる。
本にもネットの記事にも、日記と振り返りをすすめる話はあふれています。最近は「ジャーナリング」という言葉もよく聞くようになりました。
続けるための工夫も、たくさん紹介されています。
目標を小さくする。時間を決める。できたらほめる。
それでも、続かない。
続かないのは、やる気や根気の問題ではないと思っています。
「キャリア・パスポート」という記録を、ご存じでしょうか。
2020年から、すべての小学校・中学校・高校ではじまった、子どもが自分で書きためる振り返りの記録です。小1から高3まで、学期や学年の節目に「できるようになったこと」「これからの目標」を書いていく。
この記録の目的は、書きためること自体ではありません。
書いたものをもとに、自分の変化や成長に気づき、次の目標につなげること。だから設計図には、担任の先生が「対話的に関わる」ことがセットで書かれていました※1。書く子どもと、読んで問いかける大人。2つそろって、はじめて目的が果たされる設計です。
そして国は、「全員が書く仕組み」を作りました。
学校の活動ですから、三日坊主にはなりません。実際、記録は書かれ、綴じられ、学年が上がるたびに引き継がれてきました。
ところが導入5年後の全国調査で、記録をもとに子どもと対話している担任の先生は、小・中・高のどの校種でも2割未満だったことがわかりました※2。
書く方は続いたのに、対話が起きていない。成長に気づくという目的が果たされないまま、書いて綴じる作業だけが残りました。
2026年、文部科学省は「手段が目的化し、形骸化につながっている」と認めています※3。
書く仕組みはできた。書くことは続いた。
それでも、返事をくれる人が足りませんでした。
実は、キャリア・パスポートを使った授業を受けたと認識している小学生のうち、94.9%が「記録を振り返ることは大切」と答えています※4。
子どもは、振り返りを嫌っていない。
先生方に悪気があるわけでもありません。同じ調査で、先生の困りごとの最多は「コメントを書く時間が確保されていない」(小学校の担任の53.0%)でした※5。読みたくても、読む時間が構造的にないのです。
書く子どもがいて、書く仕組みがあって、それでも、返事をくれる大人がいなかった。
記録が形だけになった理由は、ここにあるのだと思います。
反対に、何十年も続いている記録があります。母子健康手帳です。
1948年にはじまり、いまも妊娠がわかると全員に渡されます※6。
母子手帳が続いてきた理由は、書き方の工夫ではないと思います。
健診や診察のたびに、医師や保健師さんが手帳を開き、読んで、書き込んで、返してくれる。
毎回かならず読む人がいる記録だけが、生き残っています。
日記も、振り返りも、同じです。
続かないのは、書く側の工夫が足りないからではなく、返事をくれる読者がいないから。
大人の日記が続かないのも、これで説明がつきます。
読者が自分ひとりしかいない記録は、よほど書くことが好きでないと続きません。
じゃあ、私が読めばいい。そう思われた方も多いはずです。
ただ、ここには2つの壁があります。
1つ目は、単純に大変だということ。
毎週、子どもの記録を読んで、評価もアドバイスもせずに返す。教育のプロである学校の先生ですら、その時間を確保できていませんでした※5。
2つ目は、距離の問題です。
親子の距離は近すぎて、同じ言葉でも「親だからそう言うんでしょ」と受け取られてしまう。
親御さんが読めば、どうしても直したいところが目に入る。ほめて伸ばそうとすれば、子どもはほめられるための言葉を書くようになる。
これは親御さんの知識や努力の問題ではなく、家族なら当たり前に起こる、構造の問題だと考えています。
ユイロの先生は、子どもの人生を記録し、返事をする人です。
これまで、ユイロの先生のことは「教育のかかりつけ医」と説明してきました。
学校の枠組みを越えて、毎日の生活から、高校卒業後の進路まで支える存在、という意味です。
「かかりつけ医」は、大人にとってはなじみのある言葉かもしれません。
でも、子どもにとってはなじみがない。ピンとこないし、何より、ワクワクしません。
私はマンガが大好きです。子どもの頃は、漫画家になりたいと思っていました。
マンガのいいところは、いろんな物語があること。読むたびに、いろんな人生を体験できるような感覚になれるのが好きでした。
誰でも、自分の人生というマンガの主人公。
バトル漫画だけがマンガではないように、いろんな人生があっていい。
その見立てで言えば、ユイロの先生は、子どもの「担当編集者」と言えるのではないか。そう考えるようになりました。
教える人でも、励ます人でもなく、その子の毎週を最初に読む人。つまり、最初の読者でもあります。
だから子どもには、「あなたの担当編集者だよ」と伝えたい。
具体的には、一人ひとりに担当の先生がつき、毎週かならず1対1で話します。
書くのは先生の側です。子どもは、好きなことや、その週にあったことを話すだけ。
担当の先生が記録にして、読んで、返事をつけて返します。
ユイロに通う子どもたちがうれしそうになる瞬間は、記録がうまく書けたときではありません。
見守られてる感じがしてすごくモチベーションにつながりました
(ユイロの中学1年生)
しっかり読んだ上でコメント返してくれるのがとても嬉しい
(ユイロの高校3年生)
自分の話したことが、ちゃんと受け取ってもらえたとき。先生からの反応がもらえたときです。
私は親御さんに「今日から毎日、お子さんの読者になりましょう」とは言いません。
それが大変なのは、意志の問題ではなく構造の問題だからです。
親御さんにできるいちばんのことは、返事をくれる大人との出会いを、家の外につくることだと思います。
特別な資格がある人、特定の職業である必要はありません。塾の先生、部活のコーチ、親戚のお兄さんお姉さん。子どもの話を、そのまま受け取って、聞いてくれる大人なら、誰でも大丈夫です。
ここまでブログを読んでくれてありがとうございます。
このブログも、じつは「読んでくれる人がいる」から続いています。
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※1 出典:文部科学省 事務連絡「『キャリア・パスポート』例示資料等について」別添「『キャリア・パスポート』の様式例と指導上の留意事項」(2019年3月29日) https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/08/21/1419890_002.pdf
※2 出典:国立教育政策研究所「令和7年度キャリア教育に関する総合的研究 第一次報告書」調査結果集計表。「記録をもとに教員と児童生徒が対話」は小17.9%・中18.2%・高15.6% https://www.nier.go.jp/_uploads/2026/01/17_4_02_chosakekkasyukeihyou.pdf
※3 出典:中央教育審議会 教育課程部会 特別活動ワーキンググループ(2026年5月25日)資料1-1「キャリア教育の充実について」(文部科学省) https://www.mext.go.jp/content/20260525-mxt_kyoiku01_000050119_3-1.pdf
※4 出典:国立教育政策研究所 同調査 概要 https://www.nier.go.jp/_uploads/2026/01/gaiyo.pdf
※5 出典:国立教育政策研究所 同調査 調査結果集計表(担任調査「困っていること」) https://www.nier.go.jp/_uploads/2026/01/17_4_02_chosakekkasyukeihyou.pdf
※6 出典:JICA「母子健康手帳」 https://www.jica.go.jp/activities/issues/health/mch_handbook/materials.html