本には書けない話|13歳からの進路相談 著者・松下雅征のブログ

悩んでた時期も無駄じゃなかったって思える。|本には書けない話|13歳からの進路相談 著者・松下雅征

5月29日に出した新刊『転校の教科書~学校にモヤモヤを感じたら読む本~』(通称、転校本)には、「みんなの転校体験談」という章があります。実際に転校を経験した子たちに話を聞いて、漫画イラストレーターの川口真目さんと一緒に、漫画にしてまとめたものです。

転校本に掲載している「みんなの転校体験談」、1話まるごと紹介します。今日は、五人目。Tさん(仮称)の話です。

今回も、Tさん本人とお母さんの2人が、交互に語ってくれた物語です。

 松下 雅征(まつした まさゆき)

Tさんは、「みんなからどう思われているか?」が怖くなり、中学で不登校になった子です。適応指導教室やオンラインのフリースクールを経て、定時制高校へ進学。しかしそこでいじめを受け、高校1年生の夏、私立の通信制高校へ転校しました。いまは落ち着いた生活を取り戻し、「行くだけで楽しい」と話しています。まずは、2人の物語を漫画でどうぞ。読み終えたあとに、私が感じたことを少しだけ書きました。

ここからは、私がこの話を聞いて感じたことです。

つくったキャラは、いつか剥がれる

Tさんの話でいちばん考えさせられたのは、定時制高校での「キャラづくり」です。「ここでは失敗しない」「変なやつだと思われないように、明るく、積極的に、元気に」。中学で「みんなからどう思われているか?」が怖くて学校に行けなくなった子が、今度は「どう思われるか」を先回りして、自分をつくり替えようとした。心機一転、頑張ろうとした。あれは、Tさんなりの精一杯の作戦だったと思います。

でも、Tさん自身が漫画のなかで言っています。「作り物はいつか剥がれるときがくる」。つくったキャラは見抜かれ、「かかし」と呼ばれるいじめが始まりました。「ただ、普通に過ごしたいだけなのに」。この言葉が、私には忘れられません。頑張って明るいキャラを演じることと、安心して普通に過ごせることは、別のものなんです。

だから、現在のTさんの言葉が効いてきます。「いまはもう行くだけで楽しいよ。いまの学校では自然体でいられるから」。居場所とは、キャラを演じなくてもいられる場所のことだと、Tさんが教えてくれている気がします。

「どんな学校がいい?」より、「これだけは絶対無理」

お母さんの動きにも、大事なところがいくつもあります。いじめが起きたとき、学校から返ってきたのは、加害者を守るための言い訳ばかりでした。「どうして被害者側が対応しないといけないんですか!?」。本当にその通りで、闘う理由は十分にあった。それでもお母さんは、「このままじゃこの子も私も疲れるだけ。それって本当にこの子のためになるのだろうか」と立ち止まります。不毛な議論を続けるより、新しい居場所を探す。あの子自身の「心地よさ」を一番のモノサシにする。闘うのをやめたのではなく、闘う場所を変えたんだと思います。

そして、次の学校の探し方。「どんな学校がいい?」と聞かれたTさんは、「わからない」と答えます。いいなと思って選んだ学校で、いじめにあったばかりだから。傷ついた直後の子に「行きたい学校」を聞いても、言葉は出てきません。そこでお母さんが変えた聞き方が、「これだけは絶対無理!」っていうのがあったら教えて、でした。朝が苦手だから遠い場所は無理。広い場所も苦手。宿泊がある学校もつらい。いじめてきた相手ともう会いたくない。希望は語れなくても、無理なら語れる。NG条件を並べていくと、ビルのなかのキャンパスで移動が少なく、通学型のスクーリングで、加害者の家から遠い通信制高校にたどり着きました。消去法は後ろ向きな選び方に見えるかもしれません。でも、傷ついた本人の実感にいちばん近い、誠実な選び方だと私は思います。

今日も松下のブログを読んでくれてありがとうございます。「悩んでた時期も無駄じゃなかったって思える」。この言葉は、渦中にいるときには、まだ言えない言葉だと思います。悩んでいる最中は、この時間に意味があるのかどうかなんて、考える余裕もない。それでいいんだと思います。意味はあとからつきます。Tさんの場合は、自分に合った道を選べたとき、ふり返ってはじめて「あの時間があったから」と言えた。だから、いままさに悩んでいる時間に、あせって意味をつけなくていい。この物語が、そのことを教えてくれます。