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悩んでた時期も無駄じゃなかったって思える。

5月29日に出した新刊『転校の教科書~学校にモヤモヤを感じたら読む本~』(通称、転校本)には、「みんなの転校体験談」という章があります。実際に転校を経験した子たちに話を聞いて、漫画イラストレーターの川口真目さんと一緒に、漫画にしてまとめたものです。

転校本に掲載している「みんなの転校体験談」、1話まるごと紹介します。今日は、五人目。Tさん(仮称)の話です。

今回も、Tさん本人とお母さんの2人が、交互に語ってくれた物語です。

 松下 雅征(まつした まさゆき)

Tさんは、「みんなからどう思われているか?」が怖くなり、中学で不登校になった子です。適応指導教室やオンラインのフリースクールを経て、定時制高校へ進学。しかしそこでいじめを受け、高校1年生の夏、私立の通信制高校へ転校しました。いまは落ち着いた生活を取り戻し、「行くだけで楽しい」と話しています。まずは、2人の物語を漫画でどうぞ。読み終えたあとに、私が感じたことを少しだけ書きました。

Tさん#0

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Tさん#2

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Tさん#8

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ここからは、私がこの話を聞いて感じたことです。

つくったキャラは、いつか剥がれる

Tさんの話でいちばん考えさせられたのは、定時制高校での「キャラづくり」です。「ここでは失敗しない」「変なやつだと思われないように、明るく、積極的に、元気に」。中学で「みんなからどう思われているか?」が怖くて学校に行けなくなった子が、今度は「どう思われるか」を先回りして、自分をつくり替えようとした。心機一転、頑張ろうとした。あれは、Tさんなりの精一杯の作戦だったと思います。

でも、Tさん自身が漫画のなかで言っています。「作り物はいつか剥がれるときがくる」。つくったキャラは見抜かれ、「かかし」と呼ばれるいじめが始まりました。「ただ、普通に過ごしたいだけなのに」。この言葉が、私には忘れられません。頑張って明るいキャラを演じることと、安心して普通に過ごせることは、別のものなんです。

だから、現在のTさんの言葉が効いてきます。「いまはもう行くだけで楽しいよ。いまの学校では自然体でいられるから」。居場所とは、キャラを演じなくてもいられる場所のことだと、Tさんが教えてくれている気がします。

「どんな学校がいい?」より、「これだけは絶対無理」

お母さんの動きにも、大事なところがいくつもあります。いじめが起きたとき、学校から返ってきたのは、加害者を守るための言い訳ばかりでした。「どうして被害者側が対応しないといけないんですか!?」。本当にその通りで、闘う理由は十分にあった。それでもお母さんは、「このままじゃこの子も私も疲れるだけ。それって本当にこの子のためになるのだろうか」と立ち止まります。不毛な議論を続けるより、新しい居場所を探す。あの子自身の「心地よさ」を一番のモノサシにする。闘うのをやめたのではなく、闘う場所を変えたんだと思います。

そして、次の学校の探し方。「どんな学校がいい?」と聞かれたTさんは、「わからない」と答えます。いいなと思って選んだ学校で、いじめにあったばかりだから。傷ついた直後の子に「行きたい学校」を聞いても、言葉は出てきません。そこでお母さんが変えた聞き方が、「これだけは絶対無理!」っていうのがあったら教えて、でした。朝が苦手だから遠い場所は無理。広い場所も苦手。宿泊がある学校もつらい。いじめてきた相手ともう会いたくない。希望は語れなくても、無理なら語れる。NG条件を並べていくと、ビルのなかのキャンパスで移動が少なく、通学型のスクーリングで、加害者の家から遠い通信制高校にたどり着きました。消去法は後ろ向きな選び方に見えるかもしれません。でも、傷ついた本人の実感にいちばん近い、誠実な選び方だと私は思います。


今日も松下のブログを読んでくれてありがとうございます。「悩んでた時期も無駄じゃなかったって思える」。この言葉は、渦中にいるときには、まだ言えない言葉だと思います。悩んでいる最中は、この時間に意味があるのかどうかなんて、考える余裕もない。それでいいんだと思います。意味はあとからつきます。Tさんの場合は、自分に合った道を選べたとき、ふり返ってはじめて「あの時間があったから」と言えた。だから、いままさに悩んでいる時間に、あせって意味をつけなくていい。この物語が、そのことを教えてくれます。


 

この記事を書いた人

13歳からの進路相談 著者/ユイロ高等学院 学院長
松下 雅征/Matsushita Masayuki
13歳からの進路相談 著者/ユイロ高等学院 学院長

1993年生まれ。福岡市在住、一児の父。早稲田実業学校高等部を首席で卒業し、米国へ留学。その後、早稲田大学政治経済学部を卒業。偏差値のレールを走った学生時代。それでも消えなかったのは、漫画家になる夢を手放した中学時代の違和感。この原体験が、のちの起業の原点となる。教育系上場企業、コンサルティング会社を経て独立。「ちがいを、描け。」をミッションに掲げ、2022年に株式会社ユイロを創業。同年、 ユイロ高等学院を創立。2026年4月に月額定額型の新サービス「 家庭教師のユイロ」をリリース。「選び直せる学校」や「勉強を教えない家庭教師」を通じて、一人ひとりのちがいを起点に進路を描く新しい教育の文化づくりに取り組む。
慶應義塾大学名誉教授・武蔵野大学ウェルビーイング学部長である前野隆司教授との共同研究により、自律度を可視化する独自メソッド「ユイロ式自律度診断」を開発。
著書『13歳からの進路相談』シリーズ(すばる舎)は累計16,000部突破、全国の学校や図書館で多数採用。2作目『13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編』は紀伊國屋書店 総合週間ランキングで玉川高島屋店1位、新宿本店2位を獲得。2026年5月29日にはシリーズ3作目『転校の教科書』を発売予定。
東京・世田谷で小中学生向けの無料プログラミング部活動を展開する一般社団法人セタプロ・代表理事を務める。
著書:『 13歳からの進路相談(すばる舎)』、『 13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編(すばる舎)』、『 転校の教科書(すばる舎)