夏休み明け、子どもが突然学校に行けなくなった保護者と話したこと
「不登校は突然始まった」。
先日から、「不登校の進路相談ラジオ」という番組をはじめました。これは、第1回につけたタイトルです。ゲストは、3人のお子さん全員が不登校を経験した保護者の舩山さん。1学期は一日も休まず、友達もたくさんいて、元気に通っていた小学1年生の次男くん。その子が、夏休みが明けてすぐ、「行きたくない」と言った。その日のことを聞かせてもらいました。
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毎年、夏休みが終わりに近づくと、「夏休み明けに、子どもが突然学校に行けなくなる」という報道が増えます。昨日まで元気だった子が、2学期の初日から行けなくなる。親からすると「突然」の話が、この季節の定番です。舩山さんの次男くんも、その一人でした。
実際、数も増え続けています。文部科学省の調査では、小中学生の不登校は35万3,970人。12年連続で増えて、過去最多です(令和6年度※1)。NHKの報道によれば、小学1・2年生の不登校は、この10年で7倍になりました※2。
松下 雅征(まつした まさゆき)
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私が舩山さんとの対話で印象的だったのは、親からすると突然の話も、子どもからすると突然ではない、ということでした。 |
「突然」は、親から見た景色
「行きたくない」と言われた日のことを、舩山さんはこう振り返っています。
もうね、突然だったんですよ。(中略)何が?なんで?みたいな。もう本当に急にで。どうしようって、なんか全然、心の準備もできてないから。
(舩山さん「不登校の進路相談ラジオ#1」より)
嫌がる素振りもない。勉強のつまずきも、友達関係の不安もない。親から見て、材料がまったくないのですから、「突然はじまった」としか言いようがありません。
でも、子どもにとっては、順番が逆なんです。
「行きたくない」は、はじまりの言葉ではなく、おわりの言葉。学校で何かがうまくいかなくて、我慢して、頑張って、それでも削られて、隠しきれなくなって、ようやく口から出てくる。親にとっての「はじまりの日」は、子どもにとっては、長い我慢がようやく限界を迎えた日。おわりの日なんです。
だから、不登校は突然はじまらない。突然に「見える」だけで、子どものなかでは、ずっと前からはじまっていた。
舩山さんの次男くんも、あとから振り返れば、シグナルを出していました。ただそれは、親が想像する形とは、ちがうものでした。
シグナルは体に出るとは限らない
学校に行けなくなる前の兆しというと、「お腹が痛い」「頭が痛い」のような体の症状を思い浮かべる方が多いと思います。もちろん、それも大事なシグナルです。でも、次男くんの場合はちがいました。舩山さんは、こう話します。
お腹が痛いとは言わなかったけども、やっぱり元気はなくなりましたね。とても悪いことを告白するような、子どもながらに、小1ながらに、すごい後ろめたさみたいなものはあったのかなっていう感じはしますね。
シュンとしている。表情が暗い。言葉や症状ではなく、元気の量が減っていく。それが、次男くんのシグナルでした。
言葉になった理由を強いて挙げれば、「先生が怖い」。ただ、よく聞くと、怒られていたのは近くの席の別の子でした。自分が怒られていなくても、誰かが強く怒られている声を聞き続ける教室は、幼い子には十分怖い。でも、小学1年生に、その状況を説明する言葉はまだありません。だから「先生が怖い」になる。
これは、小さい子だけの話ではありません。私が経営しているユイロ高等学院(通信制)でも、転校してきた理由を聞いていくと、「教室が怖い」と言う生徒が少なくないんです。友達が怒られているのを見ていると、まるで自分が怒鳴られているみたいで、心が苦しくなる。2人や3人の話ではありません。
見逃しは、親の落ち度ではない
「シグナルはずっと前からあった」と聞くと、「気づけなかった自分が悪かったのか」と感じる方がいるかもしれません。ちがいます。むしろ逆です。
子どもが隠すのは、親のことが大好きだからです。期待に応えたいからです。心配をかけたくない。がっかりされたくない。だから、限界まで元気なフリをする。見えないのは、親が鈍いからではなく、子どもがそれだけ頑張って隠しているから。見逃すのが、ふつうなんです。
じゃあ、この話を知っておく意味は何か。私は、「行きたくない」と言われた日の、最初のひと言が変わることだと思っています。
「突然はじまった」と思っていると、つい「なんで急に?」「昨日まで元気だったじゃない」と、原因を問い詰めたくなります。でも、「この子のなかでは、長い時間が流れていたのかもしれない」と知っていれば、かける言葉が変わる。原因を聞き出すことより先に、ここまで一人で持ちこたえてきた時間のほうに、目を向けられる。
「行ってほしい」ほど、行けない
とはいえ、頭でわかっていても、親の気持ちはすぐには変わりません。ラジオでは、舩山さん自身の変化も話してくれました。最初は「理解のある親のフリ」をして、あっさり休ませた。2日経っても3日経っても変わらず、焦って、無理やり行かせようとした時期があった。そして、少しずつ価値観が変わっていった。
学校に行ってほしいっていう気持ちが強い間は、むしろ行かなくて。(中略)もう行きたくないなら本当に行かないでいい、行きたいなら行っていい、どっちでもいい、ってなったら行くようになったっていうところはありますね。
子どもは、親の期待に敏感です。「行ってほしい」が強いほど、行けない自分への後ろめたさが増して、ますます動けなくなる。そして、親の価値観は、渦中では変わりません。舩山さんも、「学校に行かなくても、元気でさえいてくれればいい」と思えたのは、次男くんがいったん元気をなくすところまでいってからだったと話していました。
これは、他人事ではなくて。私自身は、学校に行っていた側の人間です。行っていたからこそ、わが子には「行ってほしい」と思ってしまう。ラジオでも、正直にそう話しました。しんどそうな姿を見るまで気づけないのは、ある意味、仕方のないことなんです。だから、いま渦中にいて「どうしても行ってほしいと思ってしまう」という方も、その気持ちを責めなくていい。順番として、そういうものなんです。
学校しか知らないから、必死に行かせようとする
それでも一つだけ、渦中で持てるものがあるとしたら、「道は一本ではない」と知っておくことだと思います。
これは、ラジオで私から舩山さんにお伝えした話でもあります。進路の世界では、「ここしか選べない」と思うと、ストレスが強くなると言われています。大人でいえば、「この会社でしか働けない」と思い詰めた状態。逆に、「ほかも選べるけど、自分はこの会社を選んでいる」と思えると、職場が変わらなくても気持ちが楽になる。
子どもの学校も同じです。「学校に行かないといけない」という一本道だと、心が窮屈になる。でも、「行っても行かなくてもいい」という別の道があると、心が軽くなって、その結果、行きたいときに行ける。実際、次男くんが少しずつ学校に行けるようになったのは、親子で「どっちでもいい」と思えるようになってからだったそうです。
舩山さんが言っていたのは、親が必死に行かせようとするのは「学校しか知らないから」だ、ということでした。学ばせる場所は学校しかない。そう思っているから、不安と焦りでいっぱいになる。でも実際には、いまの学校に戻る道のほかに、別の場所で学ぶ道があります。転校や転入、通信制、フリースクール。実際に移るかどうかは、どちらでもいいんです。「いざとなったら、別の道がある」と知っているだけで、親の「行ってほしい」の圧が少し緩む。その分、子どもは呼吸がしやすくなる。
その「別の道」を学年別にまとめたのが、『転校の教科書』(2026年5月29日発売)です。転校する人のための本というより、転校しない人も「こんな選択肢がある」と知っておくと気持ちが楽になる、という本です。お守り代わりに、そばに置いてもらえたら嬉しいです。
夏休み明けは、1年で一番「突然」の話が増える季節です。もしこの秋、お子さんが「行きたくない」と言ったら。それは突然のはじまりではなく、お子さんが一人で持ちこたえてきた、長い時間のおわりかもしれません。「なんで急に」の代わりに、「ここまでよく頑張ったね」からはじめられたら、それで十分だと思うんです。
今日も松下のブログを読んでくれてありがとうございます。「聞く」を仕事にしているくせに、ラジオの収録は毎回ドキドキしています。ところでこの番組、映像もあるんですよね。ラジオと呼び続けていいんでしょうか。
※1 出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(令和6年度) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm
※2 出典:NHK NEWS WEB『10年で7倍 不登校の"低年齢化"にどう対応?』(2026年5月23日) https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015126451000
この記事を書いた人

13歳からの進路相談 著者/ユイロ高等学院 学院長
1993年生まれ。福岡市在住、一児の父。早稲田実業学校高等部を首席で卒業し、米国へ留学。その後、早稲田大学政治経済学部を卒業。偏差値のレールを走った学生時代。それでも消えなかったのは、漫画家になる夢を手放した中学時代の違和感。この原体験が、のちの起業の原点となる。教育系上場企業、コンサルティング会社を経て独立。「ちがいを、描け。」をミッションに掲げ、2022年に株式会社ユイロを創業。同年、
ユイロ高等学院を創立。2026年4月に月額定額型の新サービス「
家庭教師のユイロ」をリリース。「選び直せる学校」や「勉強を教えない家庭教師」を通じて、一人ひとりのちがいを起点に進路を描く新しい教育の文化づくりに取り組む。
慶應義塾大学名誉教授・武蔵野大学ウェルビーイング学部長である前野隆司教授との共同研究により、自律度を可視化する独自メソッド「ユイロ式自律度診断」を開発。
著書『13歳からの進路相談』シリーズ(すばる舎)は累計16,000部突破、全国の学校や図書館で多数採用。2作目『13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編』は紀伊國屋書店 総合週間ランキングで玉川高島屋店1位、新宿本店2位を獲得。2026年5月29日にはシリーズ3作目『転校の教科書』を発売予定。
東京・世田谷で小中学生向けの無料プログラミング部活動を展開する一般社団法人セタプロ・代表理事を務める。
著書:『
13歳からの進路相談(すばる舎)』、『
13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編(すばる舎)』、『
転校の教科書(すばる舎)』
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悩んでた時期も無駄じゃなかったって思える。