本には書けない話|13歳からの進路相談 著者・松下雅征のブログ

受験を頑張って私立に入ったのに。|本には書けない話|13歳からの進路相談 著者・松下雅征

先日、こんなニュース記事を読みました。

増える中学受験後の不登校:学習進度も影響、転校で新たな道へ進む子も(記者・田中瑠衣子さん)

中学受験で私立に入った子が、入学後に不登校になるケースが増えている、というお話で。記事の中で、特に胸が痛くなった言葉が、これでした。

頑張って私立に入ったのに、恥ずかしくて地元の公立に行けないという子もいる。

ユイロに入学・転校してきてくれた生徒たちから、私もよく聞く言葉なんですよね。

 松下 雅征(まつした まさゆき)

頑張って私立に入ったのに、恥ずかしくて地元に行けない」という言葉を聞いて感じたことを、ユイロでの経験を踏まえて、自分なりに言語化したくなったので、書いてみます。

やることが多すぎると、日々を振り返る余裕がなくなる

田中記者の記事を読みながら、高校1年生のときにユイロ高等学院に転校してきた、ある生徒のことを思い出しました。

その生徒は、首都圏の中高一貫校に通っていた方で、ある時期から学校に行けなくなってしまった。理由を聞くと、いろいろあったんですけど、一番大きかったのは「毎日の課題の量」だったそうです。

朝から夜まで授業があって、終わってからもたくさんの宿題が出る。週末も模試。テスト前は当然、寝る時間も削って勉強する。

これ自体は、進学校では普通のことなのかもしれません。

でも、その日々が続くと、ある時ふと「自分はなんで、この学校にいるんだっけ」って、わからなくなった瞬間が来たんです。

これは、学校で学ぶ子どもだけではなく、会社で働く大人も、たぶん同じで。

やることが多すぎると、日々を振り返る余裕がなくなりますよね。

そして余裕がなくなると、当然、自分で考えて、何かを決めることもできなくなる

やることだけが積み上がっていく毎日のなかで、日々を振り返る余裕も、何かを考えて決める力も奪われてしまう。これが、私が見ていて感じる、いわゆる進学校で不登校になる子どもに共通する状況です。

子どもが変わる「する、知る、選ぶ」の順番

ユイロ高等学院では、転校してきた生徒に、まず最初にゆっくり日々の生活を送ってもらうことから始めます。

朝、自分のペースで起きる。 ご飯を、ちゃんと味わって食べる。 散歩する。 本を読む。 昼寝する。 家族と話す。

「そんなことで、進路が決まるんですか?」と、最初は保護者の方から心配されることもあります。

でも、これが、いちばん大事なんです。

なぜなら、余白のある生活を送らないと自分を知ることはできず、自分を知らないと、進路は選べないからです。

日々のやること「する」を一回、減らす。

そうすると、自分のことを「知る」余裕が生まれる。

自分を「知る」と、自分が何を「選ぶ」べきかが、少しずつ見えてくる。

ユイロ式では、この「する→知る→選ぶ」の順番を大切にしています。

(ユイロ式の詳細はこちら:https://yuiro.org/yuiro-method

 

先ほどの、首都圏から転校してきた生徒も、最初の数ヶ月は本当にゆっくり過ごしていました。

そのあと、自分のペースで勉強を再開して、自分で大学進学を「選んで」、結果的に、新しい進路(進学)に決まっています。

転校前には考えもしなかったような進路だったようですが、

ユイロの先生が、「1年生の時の自分に声をかけるなら、何と言ってあげたいですか?」という質問に対して、生徒が話してくれた言葉が、とても印象的だったんです。

(学校に対して)モヤモヤ思い始めたのは、おかしいからじゃなくて、ちゃんと成長するためのことだと思うから。元に戻そうとか、そうやって考えるんじゃなくて。そのモヤモヤの結果、まわりとちがうことになっても、それは絶対悪いことじゃないし。自分で成長できればいいから、何かしなきゃいけないとかじゃなくて、ちゃんとその気持ちと素直に向き合って。で、そうやって出た考えなら、きっとそれを自信持って行動に移していいんじゃないかなって言いますかね。

ユイロのミッションである「ちがいを、描け。」という言葉も、実はこうした生徒の言葉をヒントに考えたものだったりします。

(ユイロのミッション 詳細はこちら:https://yuiro.org/company

社会が変わる「実態、意識、制度」の順番

もうひとつ、田中記者の記事を読みながら、思ったことがあります。

それは、転校という選択が、社会の中で「実態→意識→制度」の順番で受け入れられていっている、ということです。

私がユイロ高等学院を設立したのは、2022年です。

当初から、中高一貫校をはじめ、全日制から通信制高校への転校生は多数存在していました。これが「実態」です。当時から、転校する子は、たくさんいたんですよ。

ただ、その頃は、転校する生徒にも、保護者にも、強い罪悪感や抵抗感がありました。

「中学受験まで頑張ったのに、私立を辞めて通信制に行くなんて」 「親に申し訳ない」 「友達にどう思われるんだろう」

そういう感情を抱えながら、転校を決めていた生徒が多かったんです。

でも、ここ数年で、明らかに意識が変わってきました

最近、転校してくる生徒に「どうしてユイロに来ようと思ったの?」と聞くと、こう答えてくれることが増えました。

「友達が先に転校したから」

つまり、自分の周りで実際に転校した子の様子を見て、「あ、これでもいいんだ」と気づいて、すんなり転校を決められるようになっている。

「実態」が広く知られることで、「意識」が変わっていっているのを感じました。

そして、最後に動くのが「制度」です。

転校に関する制度や情報は、まだ十分に整っていません。私が転校本を書いていて感じたのは、そもそも転校に関する情報は網羅的にまとまっていない、ということでした。

転校したい人も、転校を支援したい先生や保護者も、みんなが試行錯誤しながら情報を集めている状態。これが、2026年5月時点の、転校をめぐる「制度」の現実です。

田中記者の記事の中にも、こんな指摘がありました。

多くの高校では、普段の学業の評定(内申点)や部活、校内の活動を記した調査書・内申書が重視されるため、不登校の生徒は不利な位置から受験を準備することになる。調査書や内申点の扱いが柔軟な学校は限られ、選択肢は少ないのが現状だ。

これも、まさに「制度」の話ですよね。実態と意識が先に動いて、制度はまだ追いついていない。これからの数年で、制度も少しずつ変わっていくと、私は信じています。

転職と同じように、学校を変える選択肢を

5月29日に、私の3作目となる本『転校の教科書~学校にモヤモヤを感じたら読む本』を、すばる舎から出します。

この本は、転校に関する情報を、できる限り網羅的にまとめた本です。

小学生から高校生までの、転校(もとい、学ぶ場所を変える)選択肢を、私が知る限り全部書きました。

世界の学校選び事情や、いろんなご家庭の転校エピソードも、漫画でまとめています。

会社を変える転職が当たり前になったみたいに、学校を変える転校も、当たり前の選択肢になっていいんじゃないか。 会社で働く大人は、ほかの会社も選べるけど、今の会社で働いている、って思えると気持ちが楽になるよね。 学校で学ぶ子どもも、他の場所も選べるけど、今の学校に通っている、って思えると気持ちが(親も)楽になるはず。

そんなメッセージを込めて、書きました。

転校を考えている方にも、いま転校はしないけど選択肢として知っておきたい方にも、転校を支援する先生や保護者の方にも、届くと嬉しいです。

まず大人が「転校という選択肢があるんだよ」と知っておく

冒頭の田中記者の記事の中に、こんな言葉もありました。

子どもが環境を変えることを嫌がる。

これも、すごくよくわかります。前回のブログ(そこは不登校の子が行くところでしょ。)でも書いたんですけど、子ども自身の中に「ふつうの呪縛」があって、転校を選ぶことを自分で許せない、ということが起きるんですよね。

だからこそ、まず大人が「転校という選択肢があるんだよ」と知っておくことが、大事なんだと思います。

子どもが「ここしかない」と思い込んでしまっているときに、横にいる大人が「他にも道があるよ」と、自然に伝えられる。そういう状態を作っておく。

そのための、転校の教科書です。

今日も松下のブログを読んでくれてありがとうございます。昨日、すばる舎から転校本(転校の教科書)のプレスリリースも出ています。転職と同じように、学校を変える選択肢を。というメッセージを、ユイロ以外の方が発信してくれた、はじめての機会な気がします。転校本を読んでくれた方が、それぞれの言葉で感じたことを、ここから社会に発信してほしい。願わくば、その時は #転校本 をつけていただけると、私も気がつけるので嬉しい。こういうハッシュタグって、どうしたら流行るんでしょうか。

13歳からの進路読書会(福岡天神・蔦屋書店)
「転校するほどじゃないけど、なんとなく気になる」方が集まる場です。本を読んでこなくてもOK。福岡開催ですが、こうした場が実際にあること自体が、ひとつのお守りになったら嬉しいです。 ▶ 開催情報を見る