本には書けない話|13歳からの進路相談 著者・松下雅征のブログ

納得する進路選択には、時間がかかる。『転校の教科書』刊行記念トークイベントを開催しました|本には書けない話|13歳からの進路相談 著者・松下雅征

7月29日の水曜日、福岡天神 蔦屋書店で、『転校の教科書』の刊行記念トークイベントを開きました。

話し手は、子育てのラジオ「Teacher Teacher」の福田遼さんと秋山仁志さん、そして著者の私です。

(福岡天神 蔦屋書店 SHARE LOUNGE。ドリンクと軽食付きの素敵すぎる空間でした)

実はこの会の前日、熊本で大きな地震がありました。被害に遭われた方、今も不安な時間を過ごされている方に、お見舞い申し上げます。

熊本や近隣から来るはずだった方が、来られなくなるかもしれない、とご連絡をくださいました。ですが、当日は熊本から来るはずだった方を除き、事前にお申し込みいただいた方が全員、来てくださいました。出席率100%、満席です。

(東京をはじめ、遠方から参加してくださる方も)

急遽、この日の様子を録画して、来られなかった方にも後日お届けすることにしました。会の冒頭では、もし余震があったらこの会は一時中断します、避難経路はここです、という話からはじめました。

 松下 雅征(まつした まさゆき)

進路の話をするうえで、何よりも大事なのは、心と体が安心安全であることだと思うからです。

保護者の悩みには共通点がある

お申し込みのとき、参加者のみなさんに悩みごとを聞いていました。

行き渋りや不登校の渦中にいるご家庭が、小2から高2まで。「フリースクールの先はどうなるのか」という見通しの不安。「学校で選べる選択肢は使い果たした」という感覚。環境を変える判断のタイミング。待つのか、働きかけるのか。そして、親御さん自身のメンタル。

学年も状況もばらばらなのに、悩みの深いところは共通していました。

選択肢と、タイミングと、親御さんのあり方。

この日は、大きくわけるとこの3つの話をしていたと思います。

「ここしかない」がいちばんしんどい

10年以上、進路相談に向き合ってきて、進路がしんどくなる瞬間には共通点があると感じています。

「ここしかない」「この道しかない」と思っているときです。

トークでは、『13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編』でお話を伺った、受験指導専門家の西村創さんの話をしました。塾で働いていたころ、上司と考えが合わないたびに窮屈さを感じていた西村さんは、いつでも辞められる状態を作ろうと、本の執筆や講演といった副業を続けていた。その収入が塾の給料を超えて、本当にいつでも辞められる状態になったら、不思議なもので、逆に辞めたいと思うことがなくなったそうなんです。窮屈さの正体は、上司でも職場でもなく、「ここしかない」の方だったんですよね。

大人には、合わなければ転職できるという安心があります。子どもにとっては、今の学校がすべてになりやすい。

『転校の教科書』は、転校しない人にこそ読んでほしい本です。どの学年であっても、今の学校以外の選択肢はある。転校するかしないかは、どちらでもいい。「転校できる」と思えるだけで、現状は何も変わらなくても、気持ちが軽くなることがある。

(最初のトークテーマは「なぜ今、転校本を書いたのか」)

偏差値というものさしには賞味期限がある

もうひとつ話したのは、進路の選び方が難しくなっている、という話です。

私たち大人が子どもだった頃は、3つの選択肢から1つを選べばよかった。今の子どもたちは、100の選択肢から1つを選ぶ時代です。選択肢が増えるほど、人のストレスは増えます。

だから、借り物のものさしではなく、自分が納得できる「選ぶ軸」が必要になります。

偏差値というものさしは、悪くありません。私自身、それで選んできた人間です。ただ、偏差値は、人生のどこかで使えなくなる。賞味期限のあるものさしだと思うんです。

じゃあ、自分のものさしはどう作るのか。ユイロでは「生活をする、自分を知る、進路を選ぶ」という順番を大事にしています。いきなり進路のことは考えられません。寝て、起きて、ご飯を食べて、散歩する。そういう毎日の活動がまずあって、それを振り返って自分を知って、それから進路を選ぶ。

この順番の話は、ユイロ式の考え方の中心にあるものです。

(参加特典にお配りした『13歳からの進路相談』と、ユイロのご案内)

納得するには時間がかかる

自分のものさしを作るのには、時間がかかります。

イベントの終盤、福田さんがこんな話をしてくれました。

「僕たちは、考え合うこと自体を大事にしたい。パンをこねるように、すぐに完成じゃなくて、こねること、寝かせること自体が、発酵するうえで重要だったりする。だから、話し合いの場自体を大事にしていきたい」

(参加者のみなさんからの質問を、QRコードから匿名で受け付けました)

後日、アンケートで、ある保護者の方(お子さんは中2)がこう書いてくださっていました。

本日は、ありがとうございました。時間を感じないほど、集中して聴けました。パンをこねる時間、、とても響きました。子どもにも聞いて欲しかったなぁ〜と思いました。

進路の悩みに、その場で答えを出すことはできません。納得するには、時間がかかります。こねて、寝かせて、またこねる。その時間は、遠回りに見えて、遠回りじゃないんだと思います。

(イベント後の歓談で。『転校の教科書』を手に話してくださった方も)

保護者の気持ちが前を向く瞬間

アンケートで寄せていただいた言葉を、いくつか紹介させてください。

ある保護者の方(お子さんは小学生)は、

踊り場の期間にいて、先も見えなく不安な気持ちでしたが、少し気が楽になりました。

イベントの中で、人の成長は一直線ではなく、階段のように踊り場がある、という話をしました。今うまくいっていないように見える時期が、実は次に伸びるための踊り場かもしれない。という文脈での言葉です。


別の保護者の方(お子さんは小学生)は、

AIで成果物を得るだけで経過を楽しめないなんてつまらないと言う例えが、偏差値だけで大学を選んでやりがいを見つけられない子どもたちの姿と重なりました。

秋山さんが話してくれた、成果だけを手に入れても、プロセスを奪われたら幸せじゃない、という話を受け取ってくださった言葉です。

そして、お子さんが中3の保護者の方は、

涙が出るくらい考えたり、頷いたりさせてもらいました。プロセスが大事、どっちの道もあるよ、知ることができて良かったです。まだまだ時間がかかると思いますが、ぶつかること、向き合うことやってみます!

私たちは、答えを渡したわけじゃない。それでも、気持ちが前を向く。はじめて読書会を開催したときの振り返りブログにも書きましたが、場の意味は、ここにあるんだと思います。

(イベント後は、会場前方でサイン会。会場後方で協賛団体さんとの相談タイム。あちこちで話がはじまっていました)

(参加者のみなさん同士でも、話がはずんでいました)

不登校や進路の悩みを相談できる会を続けます

アンケートに、こんな言葉もありました。

一緒に考えてくださる方がいるというだけでも、親としては本当に心強く、救われることがたくさんあります。またこのようなイベントがありましたら、是非参加したいなと思いました。

納得する進路選択には、時間がかかる。だとしたら、1回のイベントで終わらせず、続けて会える場所をつくるのが、私たちの仕事だと思っています。

この会は「13歳からの進路相談会」として、続けていくことにしました。

  • オンライン会場:毎月、テーマを変えて無料で定期開催しています

  • 福岡会場:長期休みに合わせて定期開催。次は12月ごろ、冬休み前を予定(詳細が決まったらお知らせします)

また、毎週水曜の読書会も、今回のイベントを開催した福岡天神 蔦屋書店にて開催中です。申込制で、一人でも申し込みがあれば開きます。

▼開催中のイベント一覧はこちら
https://yuiro.org/event

今日も松下のブログを読んでくれてありがとうございます。

そして、イベントに来てくださったみなさん、来られなかったけど申し込んでくださったみなさん、Teacher Teacherの福田さん、秋山さん、蔦屋書店のみなさん、協賛のあいず訪問看護さん、ネクストリンク訪問看護さん、夢中教室さん、本当にありがとうございました。拙著の刊行記念という立てつけの会でしたが、終わってみたら、私がいちばん励まされていた気がします。