中学の転入は「空き席」「制度」「時期」の3条件がそろってはじめて実現します。
とくに学年途中は枠が少なく、希望しても転校できないことが珍しくありません。
通信制のサイル学院長
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本記事では、公立(指定校/指定校変更・区域外)と私立(欠員補充)の違いと、それぞれのつまづきやすいハードルと乗り越え方について、進路相談のプロ(書籍「13歳からの進路相談」著者)であり、通信制のサイル学院高等部 学院長の松下が解説します。 |
前提:中学校を転入する3条件
前提として、中学校への転入には、次の3つの条件を同時に満たすことが必要です。
第一に空き席。学級数・学年の定員・教員配置・特別教室の余裕など、安全と運営上の制約が優先されます。
第二に制度の枠。公立は「学区=指定校」が基本で、住所を変えない転校(指定校変更・区域外就学)は承認制。私立・国立は原則「欠員補充」で、募集する学年・時期・定員は学校ごとに違います。
第三に時期。学期の区切り、名簿の提出締切、出願期間、定期テストや学校行事などが、受け入れ可否と学習の合流しやすさに直結します。
転校を考える生徒や保護者は、転入を希望する中学校の「空き・制度・時期の3条件はどうなっているか」を気にしながら情報を集めると、抜け漏れなく準備を進められます。
公立中学校への転入時のハードルと乗り越え方
次に公立中学校への転入について、転入時につまづきやすいハードルと乗り越え方を見ていきましょう。
ハードル①「学校ごとに学習範囲が異なる」
引っ越しに伴う指定校への転入は、最も一般的なルートです。ただし学年途中は学級編制が確定しているため、受け入れ後の学級バランス(人数、特別な配慮が必要な生徒数の偏り等)を見ながら調整が入ります。
また学習面では、定期テストの範囲や提出物の締切が学校ごとに異なります。在籍校よりも進んでいる科目もあれば、進んでいない科目もあり、転入直後は学習進度のズレに戸惑う可能性があります。
乗り越え方①「最初は追いつく期間と割り切る」
転校直後から周りのスピードと合わせるために頑張り過ぎると、環境変化のストレスと重なって精神的な負担が大きくなりがち。
最初の2〜3週間は“追いつく期間”と割り切り、自分のペースで範囲表・提出一覧・ノートの写しをもとに不足単元を補えるように計画を立てましょう。
また、部活動に参加する場合も、見学→部分参加→全面参加の段階的な合流がおすすめです。
「住所変更あり」の転入に関しての詳細は「パターン1. 住所変更あり(住民票を動かす最も一般的な転校)」をご覧ください。
ハードル②「引っ越しなしの転入の場合は承認制であることが多い」
住民票を動かさず通学先のみ変える場合、申請=自動許可ではありません。
自治体の基準(通学安全、きょうだい在籍、医療・支援上の必要性等)に該当し、かつ受け入れ校に余裕があることが条件です。
人気校は受け入れ停止や抽選もあり、許可は期限付き(学期末・学年末・卒業まで)の運用が一般的。さらに多くの自治体で通学費補助は“指定校通学”前提のため、越境通学は自己負担になりがちです。
乗り越え方②「転入理由を裏づける書類の準備」
承認制(=必要性が高いほど転入しやすくなる)であるという前提から、就労証明・預け先同意・通学経路図・健康配慮メモなど、転入の理由を裏づける書類を早めに整えておくと審査がスムーズです。
転入先で求められる書類や、引っ越しなしでの転入条件などを熟読して準備を進めましょう。
「住所変更なし」の転入に関しての詳細は「パターン2. 住所変更なし(通学先だけ変えたい)――指定校変更/区域外就学」をご覧ください。
私立・国立中学校への転入時のハードルと乗り越え方
次に私立・国立中学校への転入に関して、転入時に生じやすいハードルについて解説します。
ハードル①「基本は空きが出た学年・時期だけ」
私立・国立は常時募集ではなく欠員補充型が多数派です。
募集の有無・実施月・定員は学校ごとに異なり、出願時には通知表(成績資料)、在学証明、面談/試験(健康情報は合格後提出が多い)などが求められます。
✔出願条件の例
- 和光中学校(東京):出願にあたり「成績証明書」または「通知表の写し(直近1年分)」の提出を明記。あわせて学科試験(国数英)と面接あり(*1)
- 金城学院中学校(愛知):出願書類に「成績証明書」「在学証明書」を要求。選考は学力試験(国・算)と面接(*2)
- セントヨゼフ女子学園中学校(三重):出願書類として「在学校の通知表コピー」「在学証明書」を明記。試験+面接の実施も記載(*3)
同学年に空きがない、年度途中で編成が固定されている、中3(受験年)で募集自体が少ないなどの条件が重なると、現実的に転入の可能性は低くなります。
さらに、学校文化(校則・所持品・ICT運用・保護者会の関与度)との適合を重視する学校もあり、学力以外のフィット感が合否に影響することもあります。
乗り越え方①「候補校を絞り、定期的に募集状況を確認」
欠員補充=「枠とタイミングの勝負」となります。このため、候補校を絞り、定期的に募集がないか確認することが大切です。
あわせて出願準備を進めておき、募集があればすぐに応募できるようにしておきましょう。
ハードル②「転入校が合わない可能性がある」
さらに、転入できたとしても「実際に入ってみたら学校が自分に合っていなかった」というケースもあります。
学習進度や周囲の環境、通学時間や行事への取り組み方など、実際に転入してみないと分からない要素は多いです。
乗り越え方②「公立への戻り方を事前に確認」
もし合わなかった場合に備え、公立への戻り方(時期・手続き・受け入れ枠)を事前に確認しておくと、選択の自由度が保てます。
結論として、私立・国立への転入は「学校独自の転入のタイミング」に合わせられるかがすべてです。
転入できる空き枠が開くタイミングを定点観測しつつ、公立側の選択肢や在籍校での環境調整も同時に進められると、子どもにあった環境をつくれる可能性が高まります。
*1 「転編入試験」和光中学校
この記事を書いた人

13歳からの進路相談 著者/サイル学院高等部 学院長
1993年生まれ。福岡県福岡市在住。一児の父。株式会社13歳からの進路相談 代表取締役社長。著書『13歳からの進路相談』シリーズは累計 16,000部突破。続々と重版されてロングセラーとなり、全国の学校や市区町村の図書館で多数採用されている。
学生時代は早稲田実業学校高等部を首席で卒業し、米国へ留学。その後、早稲田大学政治経済学部を卒業。やりたいことではなく偏差値を基準に進路を選び後悔した経験をきっかけに、大学在学中に受験相談サービスを立ち上げる。これまでに寄せられた中高生からの相談は10万件を超える。大学卒業後は教育系上場企業とコンサルティング会社で勤務。
2022年に株式会社13歳からの進路相談を設立し、代表取締役に就任。一人ひとりが自分に合った進路を選べる社会を目指し、「
サイル学院高等部(通信制)」を創立。全国から入学・転校生を受け入れ、高校卒業だけではなく、その先のキャリア支援も行っている。
著書:『
13歳からの進路相談(すばる舎)』、『
13歳からの進路相談 仕事・キャリア攻略編(すばる舎)』(紀伊國屋書店 総合週間ランキング 玉川高島屋店1位、新宿本店2位)
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